はじめに
※ この記事は研究者、契約担当者向けです
他の企業や大学と共同研究を行うにあたり、どのタイミングでどの契約書を締結すれば良いか迷う場合があります。契約交渉を始めて契約締結するまで、契約と並行して行う秘密情報のやりとりや共同研究の実施について、時系列に沿ってまとめてみました。
秘密保持契約書(NDA)の締結まで
展示会や学会での名刺交換、ホームページの問い合わせフォーム等から相手先とファーストコンタクトがあったとします。まずは対面かWeb会議で面談しましょう、ということになり、担当者同士で初面談を行います。その際に、将来的に共同研究を行いたいという方向性について合意し、まずは予備実験を行いたいのでNDAを締結しましょう、となったとします。
NDAは締結にそれほど時間をかけるべきではないと思いますので、なるべく1~2か月の期間で締結するのが良いでしょう。相手のいることなので、実際は2~3か月かかる場合もあります。とはいえ、3~6か月は時間がかかり過ぎです。
予備検討はお互いに不要だということであれば、NDAを飛ばして共同研究契約を締結しても良いと思います。
共同研究契約書締結まで
NDA締結後、お互いに秘密情報・サンプルのやりとりを行い、予備検討を行ったとします。6か月くらい経って得られた実験結果で前向きなデータが得られました。サンプルの種類や実験条件を検討すると、もっと良い結果が得られる可能性が見えてきました。この段階で両社の担当者から共同研究契約に発展させた方が良いのではないかという具体的な話が持ち上がりました。
共同研究契約書は、今後行う研究内容や役割分担、費用負担、知財の取扱い等、NDAよりは定める条件が多いため、共同研究が持ち上がった時点でどちらかの契約書雛形をなるべく早く共有するのが良いです。契約検討は2か月弱程度が理想ですが、3か月以上かかることもあるでしょう。
共同研究契約書にも秘密保持条項がある場合は、既に締結したNDAを終了させて共同研究契約書に一本化した方が契約管理上は楽になります。NDAの方が秘密保持条項が詳しく、両契約を併存させる場合も多いと思います。
共同出願契約書締結まで
無事共同研究がスタートし、1年程経ったところである新規の発明が生じました。この発明について両社で協議し、共同で特許出願をすることになりました。この場合、まずは社内の知財部や特許事務所と相談して特許出願の準備を行います。並行して共同出願契約書の準備を行うと良いでしょう。共同出願契約書はお互いの持分割合、費用負担割合、外国出願をする場合の取扱い、中間応答時の協議の方法等の手続きを定めることがメインの契約書となります。
契約の締結を特許出願前に行うこともありますが、個人的には特許出願後1ヵ月以内くらいに締結することをお勧めします。出願後であれば出願番号が得られており、共同出願契約書に紐づいた特許出願を特定することが容易になるためです。共同出願契約書は中間応答時や特許査定時に「費用負担割合ってどうだったんだろう?」となった際に参照する契約書なので、発明の名称が仮称だったり出願番号がなかったりすると特定に苦労してしまいます。
おわりに
研究者にとって契約というのは馴染みが薄く敬遠しがちかも知れませんが、せっかくの共同研究が契約律速で遅れてしまうのは勿体ないです。自社の雛形に予め目を通しておき、共同研究の際にはさっと相手方に送付できるように準備しておきましょう。