はじめに
弁理士法人シアラシア 代表の嵐田です。
私は2022年4月4日に弁理士法人を設立しました。定款の作成・認証、登記申請、登記後の手続きまで全て一人で行いました。手続きの内容や悩んだ点等を以下にまとめてみました。
定款の作成から認証まで
定款とは、商号、本店所在地、法人の事業内容等を定めた法人の憲法のようなものです。定款は記載事項の正当性を証明するため公証人に認証してもわらなければなりません。認証を受けた定款は、登記申請の際に必須の添付書類でもあります。
定款の作成
定款には絶対的記載事項、相対的記載事項、任意的記載事項があります。絶対的記載事項は事業目的、商号、所在地等の会社情報の中心となる事項なので、記載漏れがあると無効となってしまいます。相対的記載事項、任意的記載事項は記載が必須ではありませんが、定款に記載しないと有効にならない事項があります。
絶対的記載事項の「目的」について、株式会社等の法人の場合は事業内容によって変わりますが、弁理士法人の場合は弁理士法第4条~第6条の2に規定されている弁理士の業務をそのまま記載することになります。雛形は弁理士会会員専用ページに「特許業務法人設立等の手引き(平成30年発行版).doc」として公開されていた資料を参考にしました(2022年3月時点)。ただし、雛形のままでは不備があるため、一部修正する必要があります。例えば(脱退事由)において、「後見開始の審判を受けたとき」は削除する必要があります。成年被後見人制度が法改正で変わったらしく、後見開始を脱退事由とすることが不適切になったためとのことです。また、(解散の事由)において、「社員の欠乏」を追加するよう指摘されました。一人法人の場合、代表者の死亡等で誰もいなくなってしまった場合は解散になるということかと思います。
定款の作成例
※2022年11月4日追記
弁理士法人の定款作成例として、Wordファイルを載せておきました。
ダウンロードしてご自由にお使いください。
ただし、記載事項に不備があっても当法人は一切の責任を負いません。
※2022年12月26日追記
特許庁より、弁理士法の一部の記載に誤記があったとの通知がありました。
本記事に載せている定款のサンプルファイルも誤記がありあましたので、訂正したファイルを再アップロードしました。
公証人による定款の確認
作成した定款は、公証人にチェックをしてもらう必要があります。私は事業所所在地を管轄する公証役場に連絡し、メール添付で定款の案文を送りました。弁理士法人は2022年4月1日の改正弁理士法施行で設立できるようになる新しい手続きであり、公証人の方も不案内だったようで、上述の「特許業務法人設立等の手引き」を参考資料として添付しました。3月上旬には送付していましたが、1週間以上経っても返事がないので電話で確認したところ、「年度末で業務が忙しく、弁理士法人については調べないとわからないことがあるため、4月上旬になってしまう」と言われてしまいました。特定の日に法人設立を考えている方は、公証人の確認に時間がかかることを念頭に、定款の作成を早めに行った方が良いです。
定款の電子認証
定款は印刷・製本して公証役場に持ち込む方法と、定款のPDFファイルに電子署名を付与してオンラインで提出する方法の2通りがあります。私は事前に機器を揃えていて、オンライン手続きにも抵抗がなかったので後者の電子認証を選びました。
定款の電子認証は、登記供託オンライン申請システム(外部リンク)から申請用総合ソフトをダウンロード・インストールして行います。申請用総合ソフトで「申請書作成」で「電子公証」「電磁的記録の認証の嘱託」を選択し必要事項を記入して公証人に確認を受けた定款のPDFファイルを添付します。その後、「署名付与」を選択し、マイナンバーカードを読み取って電子署名をファイルに付与し、送信します。この段階では電子署名の検証はされておらず、後日法務局に行って、もしくはテレビ電話方式によって対面で認証作業を行ってもらう必要があります。弁理士法人設立の手続きは紙で提出する書類(後述の”弁理士会が発行する社員資格証明書”)もあるため法務局には行く必要があり、オンラインで完結することはできません。そのため、公証役場を訪問するアポイントをとったその日に法務局に行くことにしました。
4月1日は公証人が忙しいということで4月4日に公証役場を訪問しました。特にその場で手続きはなく、定款認証手数料50,000円と認証済定款の写し3部の金額を支払って待っていると5分程で完了しました。ちなみに電子認証を代理人に依頼せず、しかも弁理士法人というレアな法人の手続きを行うのは相当珍しいとのことでした。
登記申請
登記申請の必要書類について
弁理士法人の登記申請に必要な書類は以下の通りです。
- 法人設立登記申請書
- 定款(公証人の認証済のもの)
- 弁理士会が発行する社員資格証明書
- 代表者個人の印鑑証明書
- 代表者印(法人印)の印鑑届出書
- 代表印の印鑑カード交付申請書(登記に必須ではないですが、併せて提出することをお勧めします)
法人設立登記申請書
こちらも「申請用総合ソフト」を用いて作成します。
登記申請書には別紙として「登記すべき事項」を記載した書面を提出する必要があります。CD-RやDVD-Rに記録した電磁的記録媒体で提出することも可能です。私は、「登記すべき事項」はQRコードで提出しました。「申請用総合ソフト」でQRコード付き設立登記書面申請書の書式を選択し、作成します。「登記すべき事項」は定款の目的を記載するのですが、そのままコピー&ペーストしては長くなり過ぎるし、第〇条のような表現になっているので記載内容に困りました。私は登記情報提供サービス(外部リンク)で300円程支払うことになりますが、既存の特許業務法人の登記情報を入手し、参考にしました。今なら弁理士法人が複数登記されているので、いずれかの弁理士法人の登記情報を入手すれば良いかと思います。
定款(公証人の認証済のもの)
公証役場で取得した写しをそのまま添付書類として法務局に持参しました。
弁理士会が発行する社員資格証明書
法務局に行く前に予め弁理士会に請求する必要があります。詳細は弁理士会の会員専門ページをご覧ください。
代表者個人の印鑑証明書
私は個人の実印を作成していたので、印鑑カードを使ってコンビニで発行しました。
代表者印(法人印)の印鑑届出書
法人の印鑑を登記と同時に登録します。法務省の雛形を入手し、該当箇所に代表印と個人の実印を捺印します。代表印は法人設立登記申請書にも押す必要があったようで、法務局窓口で捺印しました。
代表印の印鑑カード交付申請書
私は登記申請当日、印鑑カード交付申請書の記入済み書面を持っていたのですが、窓口で返信用封筒が必要というようなことを言われ、よくわからなかったので「後日郵送します」といって提出しませんでした。
個人の印鑑証明書と違って、法人の印鑑証明書を取得するのは印鑑カードが必須のようです。法人の印鑑証明書はメガバンクの法人口座開設に必須の添付書類となるので、登記と同時に提出しておくことをお勧めします。
登記申請から登記完了まで
法務局では、必要書類をさっと確認して1~2分程で書類が受理されて終了し、あっさり過ぎて不安になりました。不備がなければ2週間ほどで登記が完了するとのことでした。
その後、法務局から2回程電話での修正確認がありました。例えば、役員の資格で「代表社員」と書いて申請していましたが、一人法人の場合は代表は不要なので削除して良いか?等といったことでした。結果的に特に大きな瑕疵はなかったようで、8日後の4月12日に登記手続きが完了したとの連絡がありました。
おわりに
株式会社設立であれば書籍等で情報は多くあるのですが、特許業務法人の設立に関する情報もネット上には少なく、まして4月1日に施行されたばかりの弁理士法人の設立に関する情報は皆無でした。手探りで手続きをすることになりましたが、おかげで申請用総合ソフトの使用方法や法人設立の手続き全体についての理解が深まりました。これから弁理士法人を設立しようかと考えている方に少しでも参考になれば幸いです。
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