はじめに
本記事は前回の記事の続きです。
前回の記事では、任天堂株式会社と株式会社ポケモンが株式会社ポケットペアに対して提起した特許権侵害訴訟における「複数の特許権」がどの特許権を指しているのかを推測し、候補特許となる2ファミリーに絞り込みました。
本記事では、各特許の請求項、明細書を読み込み、さらには『Pokémon LEGENDS アルセウス』、『パルワールド』の両方を実際にプレイしてみて操作を確認して前回の記事よりも一歩踏み込んだ考察をしてみました。

ファミリー1 「フィールドキャラクタの捕獲・戦闘」

ファミリー1の課題と解決策
ファミリー1の特許群は1-1の分割出願なので明細書(発明の詳細な説明)の記載は同じです。明細書の冒頭には背景技術、発明が解決しようとする課題、課題を解決するための手段が書かれており、これらを読むと従来技術の課題にたいしてどのような解決策を提示したのかという発明の本質が理解できます。
【0002】
従来、プレイヤキャラクタが仮想空間内のキャラクタにボールを投げることにより、当該キャラクタを捕獲してプレイヤキャラクタが所有する状態に設定するゲームプログラムがある(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】”Catching Wild Pokemon“、[online]、株式会社ポケモン、[令和3年12月8日検索]、インターネット(URL:https://www.pokemon.com/us/strategy/pokemon-rpgs-101/)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】 しかしながら、上記非特許文献1で開示されたゲームプログラムは、ボールを投げてキャラクタを捕獲することができるのは戦闘中に限られていて、フィールド上ではボールを投げることができない。
【0005】 それ故に、本発明の目的は、仮想空間のフィールド上において、プレイヤキャラクタに様々な種類の動作を行わせることができるゲームプログラム、ゲームシステム、ゲーム装置、およびゲーム処理方法を提供することである。
【0004】段落にあるように、従来のゲームではプレイヤキャラクタとフィールドキャラクタがぶつかると戦闘モードに移行し、戦闘中において捕獲アイテムを投げて捕獲していましたが、戦闘モードに移行せずにフィールド上でボールを投げてキャラクタを捕獲することが本発明の特徴といえます。
1-1(特許7398425)と1-2(特許7505852)の比較
1-1と1-2の比較については、前回の記事の”『パルワールド』リリース前に特許査定になった特許権ではダメなのか“において書きました。
簡単におさらいすると、『パルワールド』リリース前に特許査定になった1-1は「第1の操作入力に基づいて、少なくとも第1のモードと第2のモードとを切り替えさせ、」という要件がありますが、『パルワールド』では捕獲アイテムを構える操作と、戦闘キャラクタを構える操作は別の操作入力に基づいて行われます。そのため、『パルワールド』リリース後に特許査定となった1-2では「第1の操作入力に基づいて、少なくとも第1のモードと第2のモードとを切り替えさせ、」が削除されています。 これによって『パルワールド』に対する権利行使を行う上で余計な限定がなくなっています。
ファミリー1の明細書【0092】段落には、捕獲アイテム等のアイテムを選択するモードと戦闘キャラクタを選択するモードの切り替えはXボタンで行うことが書かれています。実際に私は『Pokémon LEGENDS アルセウス』をプレイし、Xボタンで上記の切り替えが行われることを確認しました。
1-1は特許権侵害訴訟で使われた特許権ではない可能性があり、1-2は特許権侵害訴訟で使われた特許権である可能性があると考えます。
【0092】
例えば、ユーザは、所定の操作入力を行う(例えば、操作ボタン(Xボタン)55を押下する)ことによって、プレイヤキャラクタPCが投げるカテゴリ群を変化させることができる。第1の実施形態では、フィールドキャラクタFCに影響を与える複数のアイテムを含む第1カテゴリ群が選択される第1のモードと、フィールド上でフィールドキャラクタFCと戦闘を行う複数の戦闘キャラクタBCを含む第2カテゴリ群が選択される第2のモードとが、少なくとも含まれ、ユーザが操作ボタン55を押下することによって選択されるカテゴリ群(モード)が切り替えられる。また、ユーザは、操作ボタン(Lボタン)38または操作ボタン(Rボタン)60を押下することによって、選択されているカテゴリ群からプレイヤキャラクタPCが投げるアイテムを選択することができる。図8に示す例は、上記第1カテゴリ群(第1のモード)が選択されて、当該第1カテゴリ群から空のボールアイテムBがユーザによって選択されていることを示す投てき物情報Im1が表示されている。例えば、第1カテゴリ群には、性能や見た目の異なる複数種類のボールアイテムが含まれていてもよいし、ボールアイテム以外のアイテムで、投げることによってフィールドキャラクタの動きを制限するなどして、ボールアイテムを投げて捕獲をするときのサポートとなるようなアイテムが含まれていてもよい。
1-3(特許7505854)の請求項1
【請求項1】
情報処理装置のコンピュータに、
第1の場面において、
操作入力に基づいて、仮想空間内における照準方向を決定させ、当該照準方向に向けて戦闘を行う戦闘キャラクタを放つ動作をプレイヤキャラクタに行わせ、当該戦闘キャラクタと前記仮想空間内のフィールド上に配置されたフィールドキャラクタとの前記フィールド上における戦闘を開始させ、
前記フィールドキャラクタと前記戦闘キャラクタが非戦闘状態または戦闘中における第2の場面において、
操作入力に基づいて、前記照準方向を決定させ、当該照準方向に向けて前記フィールドキャラクタを捕獲するための捕獲アイテムを放つ動作を前記プレイヤキャラクタに行わせ、
前記捕獲アイテムが前記フィールドキャラクタに命中した場合、前記捕獲が成功するか否かに関する捕獲成功判定を行わせ、
前記捕獲成功判定が肯定判定された場合に、前記捕獲アイテムが命中したフィールドキャラクタをプレイヤが所有する状態に設定させる、ゲームプログラム。
1-3は、フィールドキャラクタに向かって戦闘キャラクタを投げて戦闘をさせている間に、プレイヤキャラクタがフィールドキャラクタに向けて捕獲アイテムを投げること、が構成要件に含まれています。この構成要件は他のファミリー1の特許群にはみれれない1-3の特徴です。ポケモン、パルワールドに限らず、ゲームにおいてキャラクタを捕獲する際に対象を弱らせることは一般的であり、ここだけ見ると新規性がないように思えます。しかし、特許庁審査官の拒絶理由通知書と出願人の意見書のやりとりを見る限り、捕獲アイテム命中による成功判定、捕獲成功時に所有キャラクタになる等の他の構成要件に新規性・進歩性が認められたものと考えられます。
戦闘中に捕獲アイテムを投げることについては、例えば明細書の段落【0107】~【0110】に書かれています。この記載を根拠にして1-3の請求項1に上記の戦闘中に捕獲アイテムを投げることに関する構成要件を加えたと考えらえます。
1-3は特許権侵害訴訟で使われた特許権である可能性があると考えます。
【0107】
図14に示すように、戦闘キャラクタBCとフィールドキャラクタFCとが戦闘している間、ユーザは、コマンド選択によってプレイヤキャラクタPCおよび/または戦闘キャラクタBCの動作を制御することができる。例えば、戦闘キャラクタBCとフィールドキャラクタFCとの戦闘中においては、ユーザがコマンド選択するための複数のコマンド指示画像Cが表示される。例えば、図14では、コマンド指示画像Cの一例として、攻撃コマンド、アイテムコマンド、出現/退出コマンド、および逃げるコマンドが表示されている。ユーザは、左コントローラ3や右コントローラ4に設けられている入力部や本体装置2のタッチパネル12を用いた操作入力によって、何れかのコメントを選択することができる。
【0108】
ユーザは、攻撃コマンドを選択する操作入力を行うことによって、戦闘キャラクタBCの動作を制御することができる。一例として、攻撃コマンドが選択された場合に複数の攻撃内容からの選択が促され、ユーザは、当該複数の攻撃内容から選択する操作を行うことによって、当該攻撃内容に応じた攻撃動作で戦闘キャラクタBCを動作させることができる。
【0109】
ユーザは、アイテムコマンドを選択する操作入力を行うことによって、プレイヤキャラクタPCの動作を制御することができる。一例として、アイテムコマンドが選択された場合に捕獲アイテムを含む複数のアイテムからの使用するアイテムの選択が促され、ユーザは、当該複数のアイテムから使用するアイテムを選択する操作を行うことによって、当該選択したアイテムを使用する動作でプレイヤキャラクタPCを動作させることができる。一例として、ユーザは、フィールドキャラクタFCを捕獲する捕獲アイテムを選択する操作を上記戦闘中に行うことによって、当該捕獲アイテムを用いてフィールドキャラクタFCを捕獲する動作をプレイヤキャラクタPCに行わせることができる。
【0110】
戦闘中に用いられる捕獲アイテムは、上述したボールアイテムBと同じまたは類似したアイテムが用いられてもよい。例えば、捕獲アイテムを使用するコマンドが上記戦闘中に選択された場合、上記戦闘中のフィールドキャラクタFCに命中するようにプレイヤキャラクタPCが捕獲アイテムを投げる演出が行われるが、捕獲が成功するか否かについては、非戦闘状態と同様に捕獲成功判定が行われる。上記戦闘中の捕獲成功判定においては、当該戦闘によって変化するフィールドキャラクタFCの状態、すなわちゲージG1が示すフィールドキャラクタFCの状態に基づいて行われる。具体的には、上記戦闘によって変化するフィールドキャラクタFCの状態(例えば、残存体力)が、当該戦闘によって所定の状態まで低下している場合、上記捕獲成功判定において肯定判定され易くなる。なお、上記閾値は、フィールドキャラクタFCの種類、コマンド選択された捕獲アイテムの種類、プレイヤキャラクタPCの能力値、および戦闘キャラクタBCの能力値等の少なくとも1つに応じて変化してもかまわない。上記戦闘中の捕獲成功判定が肯定判定された場合も、捕獲アイテムを使用するコマンドが用いられたフィールドキャラクタFCが捕獲されて、ユーザが所有する状態に設定される。別の例として、戦闘キャラクタBCとフィールドキャラクタFCとが戦闘している間においても、コマンド選択する操作ではなく、上述した戦闘中以外における捕獲のように照準MにむけてプレイヤキャラクタPCが捕獲アイテムを投げる動作を行わせる操作入力によって、当該捕獲アイテムを用いてフィールドキャラクタFCを捕獲する動作をプレイヤキャラクタPCに行わせてもよい。

1-4(特許7493117)の請求項1
【請求項1】
情報処理装置のコンピュータに、
第1のモードにおいて、
方向入力である第1の操作入力に基づいて、仮想空間内における照準方向を決定させ、
第2の操作入力が行われた場合に、前記照準方向を仮想空間内のフィールド上に配置されたフィールドキャラクタに向けさせるとともに、第1の指標を表示させ、
第3の操作入力に基づいて、前記照準方向に前記フィールドキャラクタを捕獲するための捕獲アイテムを放つ動作をプレイヤキャラクタに行わせ、
前記捕獲アイテムが前記フィールドキャラクタに命中した場合、捕獲が成功するか否かに関する捕獲成功判定を行わせ、
前記捕獲成功判定が肯定判定された場合に、前記捕獲アイテムが命中したフィールドキャラクタをプレイヤが所有する状態に設定させ、
前記第1の指標は、前記捕獲成功判定の肯定判定し易さを示す情報である、ゲームプログラム。
1-4は、捕獲アイテムを構えてフィールドキャラクタに向けた際に、捕獲成功判定の肯定判定し易さを示す情報が表示されること、が構成要件に含まれています。この構成要件は他のファミリー1の特許群にはみれれない1-4の特徴です。
捕獲アイテムを構えてフィールドキャラクタに向けた際に、捕獲成功判定の肯定判定し易さが表示されることについては、例えば明細書の段落【0093】、【0094】に書かれています。この記載を根拠にして1-4の請求項1に捕獲成功判定の工程し易さを表示することに関する構成要件を加えたと考えらえます。
1-4は特許権侵害訴訟で使われた特許権である可能性があると考えます。
【0093】
上記第1カテゴリ群から選択されたアイテムが投てき物として選択されている場合、第1照準M1(例えば、標準の表示態様の照準)が表示される。また、上記第1カテゴリ群のうち、フィールドキャラクタFCを捕獲することが可能となる空のボールアイテムBが投てき物として選択されている場合、上述した照準Mを移動させる操作によっても第1照準M1の位置を移動させることができるが、ユーザが所定の操作入力を行う(例えば、操作ボタン(ZLボタン)39を押下する)ことによって第1照準M1をフィールドキャラクタFCと重畳する位置に設定(ロックオン)することができる。第1照準M1がフィールドキャラクタFCの位置にロックオンされることによって、投げたアイテムをフィールドキャラクタFCに当て易くなる。
【0094】
第1照準M1がフィールドキャラクタFCにロックオンされた状態となった場合、空のボールアイテムBが当該フィールドキャラクタFCに命中することによる当該フィールドキャラクタFCの捕獲のし易さを示す捕獲情報Igが第1照準M1近傍に表示される。例えば、プレイヤキャラクタPCが投げた空のボールアイテムBがフィールドキャラクタFCに命中した場合に行われる、当該フィールドキャラクタFCに対する捕獲成功判定の肯定判定し易さを示す指標が、捕獲情報Igとして表示される。捕獲情報Igは、捕獲成功判定の肯定判定し易さを示す複数段階の何れかを示す指標でもよいし、肯定判定される確率や度合いを示す数値を示す指標であってもかまわない。また、捕獲情報Igは、捕獲成功判定の肯定判定し易さをデザインや文字で示す指標でもよいし、サイズや動きで示す指標でもよいし、色彩や明度等で示す指標でもよい。また、捕獲情報Igは、ディスプレイ12に表示されるものでなくてもよく、捕獲成功判定の肯定判定し易さが音声やコントローラ3および/または4に与えられる振動等によって示されるものでもよい。
1-5(特許7545191)の請求項1
【請求項1】
コンピュータに、
操作ボタンを押下する操作入力に基づいて、仮想空間内のフィールド上に配置されたフィールドキャラクタを捕獲するための捕獲アイテムが複数種類含まれる第1のカテゴリ群が選択されている場合に、前記捕獲アイテムを放つために構える動作を、戦闘を行う戦闘キャラクタが複数種類含まれる第2のカテゴリ群が選択されている場合に、前記戦闘キャラクタを放つために構える動作を、前記仮想空間内のプレイヤキャラクタに行わせ、
方向入力に基づいて、前記仮想空間内における照準方向を決定させ、
前記操作ボタンとは異なる操作ボタンによる操作入力に基づいて、前記第1のカテゴリ群が選択されている場合に当該第1のカテゴリ群に含まれる前記捕獲アイテムを、前記第2のカテゴリ群が選択されている場合に当該第2のカテゴリ群に含まれる前記戦闘キャラクタをさらに選択させ、
前記構える動作を前記プレイヤキャラクタに行わせる際に押下している前記操作ボタンを離す操作入力に基づいて、前記捕獲アイテムが選択されている場合に、選択された前記捕獲アイテムを前記照準方向に向けて放つ動作を、前記戦闘キャラクタが選択されている場合に、選択された前記戦闘キャラクタを前記照準方向に向けて放つ動作を、前記プレイヤキャラクタに行わせ、
前記捕獲アイテムが放たれて前記フィールドキャラクタに命中した場合、前記捕獲が成功するか否かに関する捕獲成功判定を行わせ、
前記捕獲成功判定が肯定判定された場合に、前記捕獲アイテムが命中した前記フィールドキャラクタをプレイヤが所有する状態に設定させ、
前記戦闘キャラクタが前記フィールドキャラクタと戦闘可能な場所に放たれた場合に、当該戦闘キャラクタと当該フィールドキャラクタとの前記フィールド上における戦闘を開始させる、ゲームプログラム。
1-5はちょっと複雑に見えますが、要は以下の操作を意味しています。
- 操作ボタンを押下する操作入力を行うと、プレイヤキャラクタが捕獲アイテム(または戦闘キャラクタ)を放つために構える動作を行う
- 捕獲アイテム(戦闘キャラクタまたは)を構えている間(操作ボタンを押下している間)に、前記操作ボタンとは異なる操作ボタンによる操作入力を行い、捕獲アイテムが複数種類含まれる第1のカテゴリ群(または戦闘キャラクタが複数種類含まれる第2のカテゴリ群)から捕獲アイテム(または戦闘キャラクタ)を選択する
- 押下している前記操作ボタンを離す操作入力によって捕獲アイテム(または戦闘キャラクタ)を照準方向に向けて放つ
上記の操作については、例えば明細書の段落【0092】、【0102】に書かれています。この記載を根拠にして1-5の請求項1に「構える→アイテムを選択する→投げる」の一連の操作に関する構成要件を加えたと考えらえます。
【0092】
例えば、ユーザは、所定の操作入力を行う(例えば、操作ボタン(Xボタン)55を押下する)ことによって、プレイヤキャラクタPCが投げるカテゴリ群を変化させることができる。第1の実施形態では、フィールドキャラクタFCに影響を与える複数のアイテムを含む第1カテゴリ群が選択される第1のモードと、フィールド上でフィールドキャラクタFCと戦闘を行う複数の戦闘キャラクタBCを含む第2カテゴリ群が選択される第2のモードとが、少なくとも含まれ、ユーザが操作ボタン55を押下することによって選択されるカテゴリ群(モード)が切り替えられる。また、ユーザは、操作ボタン(Lボタン)38または操作ボタン(Rボタン)60を押下することによって、選択されているカテゴリ群からプレイヤキャラクタPCが投げるアイテムを選択することができる。図8に示す例は、上記第1カテゴリ群(第1のモード)が選択されて、当該第1カテゴリ群から空のボールアイテムBがユーザによって選択されていることを示す投てき物情報Im1が表示されている。例えば、第1カテゴリ群には、性能や見た目の異なる複数種類のボールアイテムが含まれていてもよいし、ボールアイテム以外のアイテムで、投げることによってフィールドキャラクタの動きを制限するなどして、ボールアイテムを投げて捕獲をするときのサポートとなるようなアイテムが含まれていてもよい。【0102】
上述したように、ユーザは、所定の操作入力を行う(例えば、操作ボタン(Xボタン)55を押下する)ことによって、複数の戦闘キャラクタBCを含む第2カテゴリ群(第2のモード)に切り替えることができる。そして、ユーザは、所定の操作入力を行う(例えば、操作ボタン(Lボタン)38または操作ボタン(Rボタン)60を押下する)ことによって、選択されている第2カテゴリ群からプレイヤキャラクタPCが投げる戦闘キャラクタBCを選択することができる。例えば、図11および図12に示す例は、上記第2カテゴリ群(第2のモード)が選択されて、当該第2カテゴリ群から所定の戦闘キャラクタBCがユーザによって選択されていることを示す投てき物情報Im2が表示されている。

『パルワールド』では、キーボードの「E」を押下して戦闘キャラクタが入っているパルスフィアを構えている間、キーボードの「2」を押すと左の戦闘キャラクタに、「3」を押すと右の戦闘キャラクタに切り替えることができます。キーボードの「E」を離すと戦闘キャラクタが照準方向に放たれ、戦闘キャラクタがフィールド上に現れます。
なぜ1-5(特許7545191)を追加したのか
1-5は出願経過を見ると2024年7月30日に1-6から分割出願され、スーパー早期審査制度を利用して2024年8月22日に特許査定となっており、出願から権利化までわずか20数日で早期権利化されています。後述する2-3の特許査定が2024年7月23日であり、『パルワールド』リリース後に成立した特許権が1-2、1-3、1-4、2-3の4件があるのに、なぜダメ押しの5件目を追加したのでしょうか。
1-1にあった「第1の操作入力に基づいて、少なくとも第1のモードと第2のモードとを切り替えさせ、」という要件を1-2では削除して権利化したことは上述しました。それでも「第1のモード」、「第2のモード」という構成要件は1-2に残っています。また、1-3は「第1の場面」ですが、1-4は請求項1に「第1のモード」、請求項2に「第2のモード」があります。
「第1のモード」と「第2のモード」の用語は明細書中では「第1の実施形態では、フィールドキャラクタFCに影響を与える複数のアイテムを含む第1カテゴリ群が選択される第1のモードと、フィールド上でフィールドキャラクタFCと戦闘を行う複数の戦闘キャラクタBCを含む第2カテゴリ群が選択される第2のモードとが、少なくとも含まれ、(0092段落)」と書かれておりますが、『パルワールド』では捕獲アイテムの構え・放出と戦闘キャラクタの構え・放出は別のボタンに割り振られているだけであり、第1のモード、第2のモードと言えるか微妙なところです。
特許権侵害訴訟の充足論において、この「第1のモード」、「第2のモード」を『パルワールド』が充足するかどうかが争点になる可能性があると考え、「第〇のモード」の文言を削除した請求項を成立させたかったのではないか、という説を考えてみました。実際のところは特許権者しかわかりようのないことであり、単に少しでも手札を増やしておきたかっただけかも知れません。
以上より、1-5は特許権侵害訴訟で使われた特許権である可能性があり、かつその可能性が他の特許より相対的に高いと考えています。
ファミリー2 「搭乗オブジェクトのスムーズな切り替え」

ファミリー2の課題と解決策
ファミリー2の特許群における明細書の背景技術、発明が解決しようとする課題は以下のとおりです。
【背景技術】
【0002】
先行技術として、プレイヤキャラクタをオブジェクトに搭乗させて仮想空間を移動させることが可能なゲームがある(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】“フィールドをポケモンライドで駆け巡ろう”、[online]、2017年、任天堂株式会社、[令和3年11月22日検索]、インターネット<URL:https://www.pokemon.co.jp/ex/usum/gamesystem/170922_04.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような従来のゲームにおいては、搭乗するオブジェクトの切り替えに改善の余地があった。
【0005】
それ故、本発明の目的は、プレイヤキャラクタをオブジェクトに搭乗させて移動させるゲームにおいて、複数の搭乗オブジェクトの切り替えをスムーズに行うことが可能なゲームプログラム、ゲームシステム、情報処理装置、および情報処理方法を提供することである。
前回記事ではファミリー2を「搭乗オブジェクトへの搭乗と移動」と表現しましたが、上記課題を読むと「搭乗オブジェクトのスムーズな切り替え」の方が適切でした。明細書にも空中から地上へ(例えば以下の【0111】~【0114】)、空中から水上又は水中へ、地上から水上又は水中へ等の地形間のスムーズな移動について詳細に書かれています。
【0111】
(搭乗キャラクタの切り替え)
次に、選択中の搭乗キャラクタから別の搭乗キャラクタへの切り替えについて説明する。
【0112】
図14は、プレイヤキャラクタ70が空中用搭乗キャラクタに搭乗している状態から地上用搭乗キャラクタに搭乗している状態に切り替わるシーンの一例を示す図である。
【0113】
図14の上図に示されるように、プレイヤキャラクタ70が鳥キャラクタ78に搭乗して空中を移動しているときに、プレイヤキャラクタ70及び鳥キャラクタ78が地面71に近づく。プレイヤキャラクタ70及び鳥キャラクタ78が地面71に着く際に、プレイヤキャラクタ70が鳥キャラクタ78に搭乗している状態から、プレイヤキャラクタ70が馬キャラクタ77に搭乗している状態に自動的に切り替わる。すなわち、プレイヤキャラクタ70が地面71に向かって移動する場合、プレイヤキャラクタ70が搭乗する搭乗キャラクタが、鳥キャラクタ78から馬キャラクタ77に自動的に切り替わる。また、選択画像76も、鳥キャラクタ78を示す画像から馬キャラクタ77を示す画像に自動的に切り替わる。そして、プレイヤキャラクタ70は、馬キャラクタ77に搭乗した状態となり、地面71上を移動可能となる。
【0114】
このように、プレイヤキャラクタ70が空中用搭乗キャラクタに搭乗している場合において、プレイヤキャラクタ70が地面71に向かって移動する場合には、プレイヤキャラクタ70が馬キャラクタ77に搭乗した状態に自動的に切り替わる。プレイヤによる選択操作が無くても、プレイヤキャラクタ70が搭乗する搭乗キャラクタを空中用搭乗キャラクタから地上用搭乗キャラクタに自動的に変更することができる。このため、空中での移動から地上での移動にスムーズに切り替えることができ、シームレスな移動を行うことができる。

2-1(特許7349486)の請求項1
【請求項1】
情報処理装置のコンピュータに、
仮想空間内において、操作入力に基づいてプレイヤキャラクタを制御させ、
前記プレイヤキャラクタが搭乗可能であって、地上用搭乗オブジェクトと空中用搭乗オブジェクトとを少なくとも含む複数種類の搭乗オブジェクトのうち、選択操作に基づいて前記地上用搭乗オブジェクトが選択されて搭乗指示が行われた場合、前記プレイヤキャラクタを前記地上用搭乗オブジェクトに搭乗させて、地上において移動可能な状態にさせ、
前記選択操作に基づいて前記空中用搭乗オブジェクトが選択されて搭乗指示が行われた場合、又は、前記プレイヤキャラクタが空中にいるときに第1の操作入力が行われた場合、前記プレイヤキャラクタを前記空中用搭乗オブジェクトに搭乗させて、空中において移動可能な状態にさせ、
前記プレイヤキャラクタが前記空中用搭乗オブジェクトに搭乗中に、操作入力に基づいて前記空中用搭乗オブジェクトに搭乗した前記プレイヤキャラクタを空中において移動させ、
前記空中用搭乗オブジェクトに搭乗した前記プレイヤキャラクタが地面に向かって移動する場合、前記地上用搭乗オブジェクトに前記プレイヤキャラクタが搭乗した状態に自動的に変更させて、地上において移動可能な状態にさせる、ゲームプログラム。
2-1の請求項1には、前記空中用搭乗オブジェクトに搭乗した前記プレイヤキャラクタが地面に向かって移動する場合、前記地上用搭乗オブジェクトに前記プレイヤキャラクタが搭乗した状態に自動的に変更させて、地上において移動可能な状態にさせる、が構成要件に含まれています。これは、鳥のキャラクタに搭乗して空中を移動している際に、地面に向かって急降下すると地面に当たる前に自動的に搭乗キャラクタが切り替わり、鹿のキャラクタに搭乗して地上を移動する、といった動作を意味します。この動作は『パルワールド』では実装されていないため、2-1は特許権侵害訴訟で使われた特許権ではないのではないかと思われます。
2-2(特許7490873)の請求項1
【請求項1】
情報処理装置のコンピュータに、
仮想空間内において、操作入力に基づいてプレイヤキャラクタを制御させ、
前記プレイヤキャラクタが搭乗可能な地上用搭乗オブジェクトへの搭乗指示が行われた場合、前記プレイヤキャラクタを前記地上用搭乗オブジェクトに搭乗させて、地上において移動可能な状態にさせ、
前記地上用搭乗オブジェクトに搭乗した前記プレイヤキャラクタが空中にいるときに第1の操作入力が行われた場合、前記プレイヤキャラクタを空中用搭乗オブジェクトに搭乗させて、空中において移動可能な状態にさせ、
前記プレイヤキャラクタが前記空中用搭乗オブジェクトに搭乗中に、操作入力に基づいて前記空中用搭乗オブジェクトに搭乗した前記プレイヤキャラクタを空中において移動させ、
前記空中用搭乗オブジェクトに搭乗した前記プレイヤキャラクタが地面に向かって移動する場合、前記地上用搭乗オブジェクトに前記プレイヤキャラクタが搭乗した状態に自動的に変更させて、地上において移動可能な状態にさせる、ゲームプログラム。
2-2の請求項1には、 前記地上用搭乗オブジェクトに搭乗した前記プレイヤキャラクタが空中にいるときに第1の操作入力が行われた場合、前記プレイヤキャラクタを空中用搭乗オブジェクトに搭乗させて、空中において移動可能な状態にさせ、が構成要件に含まれています。これは、例えば鹿のような地上用搭乗キャラクタにプレイヤキャラクタが搭乗中、ジャンプする、高所から落下する等の空中にいる際に特定のボタン操作をすると空中で鹿から鳥に自動的に搭乗キャラクタが切り替わり空中を移動する、といった動作を意味します。この動作も『パルワールド』では実装されていないため、2-2は特許権侵害訴訟で使われた特許権ではないのではないかと思われます。
2-3(特許7528390)の請求項1
【請求項1】
情報処理装置のコンピュータに、
仮想空間内において、操作入力に基づいてプレイヤキャラクタを制御させ、
前記プレイヤキャラクタが所有する所有キャラクタのうち、前記プレイヤキャラクタが搭乗可能な複数種類の搭乗キャラクタのいずれかが選択されて搭乗指示が行われた場合、前記プレイヤキャラクタを当該選択された前記搭乗キャラクタに搭乗させて、移動可能な状態にさせ、
前記プレイヤキャラクタが空中にいるときに第1の操作入力が行われた場合、前記プレイヤキャラクタを前記搭乗キャラクタのうち、空中を移動可能な空中用搭乗キャラクタに搭乗させて、空中において移動可能な状態にさせ、
前記プレイヤキャラクタが前記空中用搭乗キャラクタに搭乗中に、操作入力に基づいて前記空中用搭乗キャラクタに搭乗した前記プレイヤキャラクタを空中において移動させる、ゲームプログラム。
『パルワールド』を実際にプレイして試しました。乗って空を飛べるホークウィンというキャラクタを呼び出し、キーボードの「F」を長押しすると搭乗できますが、プレイヤキャラクタがジャンプする間の短い時間では搭乗は難しかったです。ホークウィンに搭乗して高所まで上昇した後、降りるボタンを押して落下する途中で再度「F」長押しすると地上に落ちる前に再び搭乗することができました。「前記プレイヤキャラクタが空中にいるときに第1の操作入力が行われた場合、前記プレイヤキャラクタを前記搭乗キャラクタのうち、空中を移動可能な空中用搭乗キャラクタに搭乗させて、空中において移動可能な状態にさせ、」は一応成立しましたが、本特許の課題であるスムーズな切り替えではありませんでした。
『Pokémon LEGENDS アルセウス』も実際にプレイしたところ、こちらは地上キャラクタに搭乗中にジャンプしてボタンを押すと飛行キャラクタに切り替わって空中を移動でき、海に向かって急降下すると魚キャラクタに切り替わって海上を移動することができました。いずれの切り替えもスムーズでした。
『パルワールド』でも上記構成要件の挙動は示すため、2-3は特許権侵害訴訟で使われた特許権である可能性があります。
ただし、具体的なことは敢えて書きませんが、本特許についてはファミリー1の各特許権に比べると弱い(「弱い」とは、例えば簡単な設計変更で回避されてしまう等)のかなといった所感を私個人としては持っています。
まとめ
- ファミリー1の1-2、1-3、1-4、1-5は請求項の記載と『パルワールド』の内容から、特許権侵害訴訟における「複数の特許権」に含まれる可能性がある。
- 1-5を追加で権利化した理由について、「第1のモード」を削除した特許権が欲しかったのではないかという少し踏み込んだ考察をした。
- ファミリー2の発明は「搭乗オブジェクトのスムーズな切り替え」と表現するのがより適切であった。
- ファミリー2の2-3は特許権侵害訴訟における「複数の特許権」に含まれる可能性はあるが、ファミリー1の4件に比べると「弱い」のではないかと思われる。