2025年9月2日、任天堂の米国特許US12,403,397(以下「397特許」)が成立しました。
発明の名称は「Storage medium, information processing system, information processing apparatus, and game processing method」で、ざっくりいうと「ゲーム中にサブキャラクター(味方キャラ)を呼び出して戦わせる仕組み」に関する特許です。
この特許に対して2025年11月、USPTO(米国特許商標庁)の長官が異例の「再審査命令」を出したことが話題になりました。再審査命令とは、特許庁の長官自らが「この特許はもう一度審査し直すべきだ」と判断した場合に出されるもので、極めてまれなケースです。
そして2026年4月1日、その再審査の結果として「Non-Final Office Action(非最終拒絶理由通知)」が出されたとip frayが報じました(2026年4月1日 ip fray記事)。
「拒絶理由通知」と聞くと大事に聞こえますが、これは特許庁が「この特許には問題がありそうです」と指摘しているだけで、特許がただちに無効になるわけではありません。任天堂はこの指摘に対して反論する機会があり、修正(補正)を行うこともできます。
1. パルワールド訴訟とは別問題
まず最も大切なポイントです。
この397特許の拒絶理由通知は、いわゆる「パルワールド訴訟」とはまったくの別問題です。
任天堂と株式会社ポケモンがポケットペア社(パルワールド開発元)に対して日本で提起した特許権侵害訴訟では、397特許とは別の3件の特許が使われています。397特許とこれら3件は「特許ファミリー」(同じ発明から生まれた一連の特許グループ)が異なります。 分かりやすくいえば、397特許と訴訟の3件は「違う発明についての特許」です。したがって、以下のことが言えます。
- 397特許が米国で拒絶されても、パルワールド訴訟で使われている3件の日本の特許が同じ理由で無効になることはありません。
- 397特許が仮に最終的に無効になったとしても、パルワールド訴訟で任天堂が不利になることはありません。
SNS上では「任天堂の特許が拒絶された=パルワールド訴訟で任天堂が負ける」という誤解が見受けられますが、それは正しくありません。これらは独立した別の問題です。
2. 拒絶理由通知の中身をやさしく解説
USPTOが出した拒絶理由通知(Non-Final Office Action)の原文は104ページもある長大な文書ですが、ここではclaim 1(請求項1)について「なぜ進歩性がないと判断されたのか」をかみいて説明します。
そもそも「進歩性」とは?
特許が認められるためには、その発明が「新しい」だけでなく、「既に知られている技術から簡単に思いつかない」ことが必要です。この「簡単には思いつかない」という要件を「進歩性」(米国特許法では「非自明性(non-obviousness)」)と呼びます。 今回USPTOは、397特許のclaim 1は既存の2つの特許文献を組み合わせると簡単に思いつける=「進歩性がない(obvious)」と判断しました。
397特許のclaim 1はどんな内容?
特許のclaim(請求項)とは「この発明が保護を求める範囲」を定義するもので、いわば特許の「守備範囲」です。claim 1は通常最も広い請求項で、今回の拒絶もここが争点となっています。
397特許のclaim 1を分かりやすくまとめると、以下のような「ゲームの仕組み」を定義しています。ここでは構成要素A~Fの6つに分解して説明します。
構成要素A:基本設定
A non-transitory computer-readable storage medium having stored therein a game program, the game program causing a processor of an information processing apparatus to execute:
「ゲームプログラムが入った記憶媒体で、そのプログラムがゲーム機のプロセッサに以下の処理をさせる」という前提部分です。要するに「ゲームソフトの中に以下の機能がある」という意味です。
構成要素B:プレイヤーキャラの移動
performing control of moving a player character on a field in a virtual space, based on a movement operation input;
「コントローラーの操作に応じて、ゲーム世界のフィールド上でプレイヤーキャラクターを動かす」。これは一般的なアクションゲームの基本操作です。
構成要素C:味方キャラ(サブキャラ)を呼び出す
performing control of causing a sub character to appear on the field, based on a first operation input, and
「ボタン操作(第1の操作)で、フィールド上にサブキャラクター(味方キャラ)を出現させる」。ポケモンでいえば、モンスターボールを投げてポケモンをフィールドに出す動作に相当します。

構成要素D:敵がいれば手動バトル開始
when an enemy character is placed at a location where the sub character is caused to appear, controlling a battle between the sub character and the enemy character by a first mode in which the battle proceeds based on an operation input,
「サブキャラを出した場所に敵キャラがいた場合、プレイヤーの操作で進む戦闘(第1モード)が始まる」。投げた先に敵がいれば、プレイヤーが指示を出しながら戦うモードです。

構成要素E:敵がいなければ自動行動
and when the enemy character is not placed at the location where the sub character is caused to appear, starting automatic control of automatically moving the sub character that has appeared;
「サブキャラを出した場所に敵がいなかった場合、サブキャラは自動的に動き始める」。敵がいない場所に出されたポケモンが、自分で判断してうろうろ動くイメージです。

構成要素F:指示を出して自動バトル
and performing control of moving the sub character in a predetermined direction on the field, based on a second operation input, and, when the enemy character is placed at a location of a designation, controlling a battle between the sub character and the enemy character by a second mode in which the battle automatically proceeds.
「別のボタン操作(第2の操作)でサブキャラを特定の方向に移動させることができ、その移動先に敵がいた場合は、戦闘が自動で進む(第2モード)」。 つまり、構成要素Dの「手動バトル」とは異なり、プレイヤーは「あっちに行け」と方向だけ指示し、戦闘自体はサブキャラが自動で行うモードです。

USPTOはどの文献を根拠にした?
USPTOは、以下の2つの先行文献を引用しました。
主引用文献(メインの根拠):Taura特許(US2020/0254335)
副引用文献(補助的な根拠):Yabe特許(US2002/0119811)
「主引用文献」とは、397特許の発明にかなり近い技術を開示している文献です。「副引用文献」は、主引用文献で足りない部分を補うために引用される文献です。
Taura特許が開示する内容
Taura特許は、プレイヤーキャラクターとサブキャラクター(味方キャラ)が登場するアクションゲームを開示しています。ちなみにTaura特許の内容から「ASTRAL CHAIN」というゲームに関する特許と思われます。 この特許では以下のような仕組みが説明されています。
構成要素A(記憶媒体にゲームプログラムが格納)
Taura特許にもゲームプログラムを格納した記憶媒体が記載されています。
構成要素B(プレイヤーキャラの移動)
「プレイヤーはアナログスティックを操作してプレイヤーキャラクターを移動させる」と記載されています。
構成要素C(サブキャラの呼び出し)
特定のボタンを押すと、サブキャラクターがプレイヤーキャラクターから「飛び出すように」出現する仕組みが記載されています。

構成要素D(敵との戦闘)
サブキャラクターを操作して敵キャラクターの周囲に巻きつくような攻撃が可能であることが記載されています。

構成要素E(敵がいない場合の自動移動)
「敵キャラクターが存在しない場合、サブキャラクターはプレイヤーキャラクターの動きに追従するように移動する」と記載されています。
構成要素F Taura特許に欠けた構成
しかし、Taura特許には構成要素Fの一部が欠けていました。
具体的には、Taura特許のサブキャラクターは自動的に最も近い敵に向かって移動しますが、「プレイヤーの操作(第2の操作入力)に基づいて」方向を変える仕組みは明確に書かれていませんでした。
ここが、397特許の発明がTaura特許だけでは否定できない「差分」です。
Yabe特許が補う構成
Yabe特許も同様に、プレイヤーキャラクターAとサブキャラクターBが登場するゲームを開示しています。ちなみに図5、図7のキャラクターは『ハンター×ハンター』のゴンとキルアのようです。Yabe特許の出願時(2001年頃)にコナミから発売されたゲームとして「Hunter×Hunter 龍脈の祭壇」があります。 Yabe特許のポイントは以下のとおりです。
サブキャラクターBは普段「自動操作モード」で動いており、最も近い敵を自動で攻撃します(図5)。しかし、状況によってはプレイヤーが「あの敵を先に倒したい」と思うことがあります。例えば、プレイヤーキャラAが敵C1と戦っている最中に、別の敵C3が近づいてきた場合。サブキャラBは敵C2を自動で攻撃中ですが、プレイヤーとしてはC3を先に倒してほしい。

そこでYabe特許では、プレイヤーが方向レバー(スティック)を敵C3の方向に倒すと、サブキャラBのターゲットがC3に切り替わる仕組み(図7)が開示されています。これがまさに「第2の操作入力に基づいてサブキャラの移動方向を変える」機能です。

USPTOの結論
USPTOは以下のように結論づけました。
「当業者(この技術分野の一般的な知識を持つ技術者)であれば、Taura特許のサブキャラクターの移動の仕組みに、Yabe特許に書かれた『プレイヤーの操作で攻撃対象を切り替える』機能を組み合わせることは、397特許の出願日よりも前の時点で容易に思いつくことができた」
分かりやすく言い換えると、こういうことです。
Taura特許:「味方キャラを呼び出して、自動で敵に向かわせる」仕組みがある
Yabe特許:「味方キャラの攻撃対象を、プレイヤーの操作で変えられる」仕組みがある
USPTOの判断:この2つを組み合わせるのは、技術者なら普通に思いつく。なぜなら「狙う敵を自分で変えたい」というのはゲームプレイヤーの自然な欲求だから。
今後の展開
今回の拒絶理由通知は「Non-Final(非最終)」つまり最終決定ではありません。今後、任天堂には以下の選択肢があります。
反論する:USPTOの判断に対して意見書を提出し、進歩性があることを主張する
補正する:claim 1の範囲を狭めて(限定を追加して)、先行文献との差別化を図る
組み合わせる:反論と補正を同時に行う
特許の審査では、拒絶理由通知が出ること自体は珍しくなく、多くの特許が拒絶と補正のやり取りを経て成立しています。今後の任天堂の対応に注目です。

