はじめに
IPO(Initial Public Offering)とは、新規株式公開の略語で東証グロース、スタンダード、プライム等の証券取引所に株式を公開することを言います。上場は資金調達、会社の信用確保、知名度の向上に大きな影響をもたらすため、スタートアップ企業にとって大きな目標の1つです。一方で、IPOするためには厳しい上場審査を受ける必要があり、場合によっては知財の取得状況もチェックされます。私は幸いにも未上場企業が東証マザーズ市場(当時)にIPOする際に立ち会った経験があり、その際も知的財産権の管理を担当いていました。
当時のことは具体的には書けませんが、一般論として知的財産権が必要かどうかは業種によると思っています。例えば介護サービス業やアパレル業であれば、ロボットやAIを使うというケースでない限り特許権の有無は上場審査であまり重視されないはずです。一方、商標権は少なくとも会社名の商標登録は済ませておくべきであり、商標権が1件もないことについて合理的な説明は難しいのではないかと思います。
「はず」、「思います」では説得力に欠けるので、2022年にIPOした会社で、2022年10月31日時点で上場が承認されている67社の特許、商標の有無を調べてみました。
2022年にIPOした企業の国内特許、国内商標の件数
J-PlatPatで企業名を検索し、国内特許、国内商標のヒット件数を全67社について調べて表1にまとめました。あまり厳密に調べたわけではないので、もしかしたら同名の企業の出願がカウントされているかも知れませんが、可能な限りノイズは排除しています。
表1 2022年IPO企業の国内特許、国内商標件数
調査結果の考察
特許、商標の出願割合
ざっと調べたところ、67社中32社、割合にして47.8%の会社が1件以上の特許を出願していました。逆にいうと特許0件の会社が過半数でした。一方、商標についてみると67社中65社、割合にして97.0%の会社が1件以上の商標を出願していました。やはり特許と比べ商標は業種に関わらず重要であり、ほとんどの企業が取得していることが確認できました。逆に商標を出していない企業はどこかというと、SBIリーシングサービスと株式会社ティムスでした。SBIリーシングサービスはSBIホールディングスの完全子会社のため、SBIグループの商標でカバーされているということかも知れません。株式会社ティムスは医療系の会社で特許は11件ありますが、商標は検出されませんでした。理由はわかりません。
特許、商標で気になった企業
坪田ラボ
上場した年で既に39件もの国内特許出願があります。表には入れていないですが外国出願も19件ありました。坪田ラボは近視、ドライアイ、老眼に関する技術開発を行う慶応大学発ベンチャーです。ホームページも遊び心ある印象で、個人的に注目しています。
マイクロ波化学
坪田ラボよりさらに多い71件もの国内特許出願、26件の外国出願がありました。知財に力を入れていることで有名な企業で、2018年の知財功労賞にも選ばれています。株式会社ユーグレナも2018年の知財功労賞を受賞しており、授賞式の際に隣同士のテーブルでした。
ANYCOLOR
Vtuber事務所、「にじさんじ」の運営会社です。特許はないですが35件の商標出願がありました。会社のロゴ等の他にVtuberの立ち絵をいくつか商標登録しているようでした。Vtuber事務所の知財戦略については、「ホロライブ」と比較して別途調べてみたいと思います。
ソシオネクスト
調べた中で断トツの803件もの特許出願がありました。IPOでプライム市場なので、他の企業とは別格の存在といえます。今年最大のIPOと言われているそうです。
ベースフード
私が通っているジムの受付の横にベースフードのパンが置いてあります。そのくらい身近になった完全栄養食の会社です。特許は3件と少なめですが、商標は27件出願しています。
まとめ
2022年にIPOした企業のうち、47.8%が少なくとも1件以上の特許出願をしていた
2022年にIPOした企業のうち、97.0%が少なくとも1件以上の商標登録出願をしていた
当初想定していた通り、IPOするような企業でも業種によっては特許を1件も出していない会社があるものの、商標を出してない会社はほとんどないことが確認できました。商標については上場するしないに関わらず、会社名と主力商品・サービスの名称はなるべく早めに取得することをお勧めします。