はじめに
弁理士法人シアラシア代表の嵐田です。
スタートアップ・中小企業が他の企業と共同研究をする際に締結する共同研究契約書で注意すべき点をまとめてみました。
共同研究契約書で注意すべきポイント
なるべく自社の雛形を使う
共同研究契約に限らず全ての契約に当てはまりますが、なるべく自社雛形をベースに契約交渉するのが理想です。雛形は基本的に自社有利なように作られています。相手先雛形をベースにした場合、自社に不利な条項を中立以上に戻す作業が必要になります。相手先によっては不利な条件が巧妙に散りばめられた雛形を送ってくるところもあり、法務担当者が気づかなければ不利なまま契約を結んでしまう事態になりかねません。
とはいえ、自社雛形がまだない場合、企業間の力関係で相手先雛形を使わざるを得ない場合は仕方がありません。相手が大学の場合は、成果の公表や不実施補償等の条項が入る関係上、大学の雛形を使ってほしいと言われることが多いと思います。そこで、相手先雛形で共同研究契約書を締結する場合において、最低限おさえておきたいポイントをご紹介します。
研究目的を具体的に
「A社の素材を用いたB社の自動車部品の開発」のような抽象的な表現では共同研究の範囲が広くなってしまい、相手先との間で解釈が割れてトラブルの元となります。一方で、具体的にし過ぎると研究開発の過程で生じた変更事項に対応できなくなり、契約書の再締結や目的修正の覚書が必要になってしまいます。研究開発目的にある程度の自由度を持たせつつ、他社との共同研究との重複を避ける表現にする必要があります。
バックグラウンド情報
共同研究を円滑に進めるにあたって、お互いが共同研究前から持っている技術情報(バックグラウンド情報)を共有し合う条項を入れる場合があります。共同研究に必要な情報を過不足なく開示するように文言に注意しましょう。共同研究前の成果と共同研究により生じた成果の混同を防ぐため、共同研究開始前に特許出願をしておく、技術情報にタイムスタンプで日時を記録しておく、技術資料をまとめて封筒に入れて公証役場で確定日付を取得することも有効です。
成果の取扱い
共同研究は何らかの成果物の完成を目的としているため、その帰属の定め方は重要です。
① 共同研究で生まれた知財は持分均等で共有にする
② 業務分担と発明への貢献に応じて帰属させる
の2パターンがありますが、個人的には①の持分均等は避けた方が良いと考えています。共同研究への貢献度が均等になるということはあまりなく、共同研究先の貢献が少ない発明についても持分均等で共有特許となってしまうためです。逆に自社の貢献が少ないことが想定される場合は持分均等を主張しても良いでしょう。
類似研究の禁止
不利な条件を気づかずに契約してしまった場合に影響が大きく、共同研究契約において最も警戒すべき事項のひとつです。共同研究を行う場合、同一又は類似の研究を行うことを許してしまうと、研究リソースの分散、研究成果のコンタミネーション等の点でデメリットが多いのは確かですが、「類似」の研究の定義が不明確な場合は解釈で争いが生じるおそれがあります。「類似」を削除したとしても、抽象的な共同研究テーマを設定していた場合は「同一」の範囲も広くなっているので要注意です。以下の例のように、上から順に「同一」の範囲が広くなるのがわかりかと思います。
・自動車のエンジンの部品となるシリンダーに関する研究
・自動車のエンジンに関する研究
・自動車に関する研究
競業避止規定がある場合は、改めて研究テーマの設定に気を付けましょう。
雛形作成はモデル契約書を活用しよう
共同研究契約書の自社雛形がない場合は、特許庁サイトで公開されているモデル契約書を自社向けにカスタマイズしましょう。以下のサイトでは契約書案だけでなく、タームシート(契約の重要事項を整理した資料)と逐条解説もあるので大変わかりやすいです。
オープンイノベーションポータルサイト | 経済産業省 特許庁www.jpo.go.jp
おわりに
私が経営する法人では、共同研究契約書を始め、知的財産関連規定のある秘密保持契約書、共同出願契約書、知的財産権譲渡契約書、ライセンス契約書等の契約書チェック、雛形の作成に関するご相談も承っております。