専門家に相談する
自分が使っている商標を他人が先に出願したことを知った場合、まず最初に専門家である弁理士に相談してください。SNS等で被害を報告することは得策ではありません。その他人が嫌がらせ目的で出願をしていた場合、あなたの反応を見て楽しんでいる可能性があります。親切な人からアドバイスがあるかも知れませんが専門家以外の方からの意見は間違っているかも知れませんし、正しいアドバイスだとしてもそのやりとり自体を先取り出願した他人に見られていたらあなたの対応策も知られてしまうかも知れません。
他人に先取り的に商標登録出願されてしまった場合の対策は、基本的にはケースバイケースですが、一般論として「このような対応策をとることになるだろう」という例を挙げておきます。
他人の商標の権利範囲、登録状況を把握する
他人に商標を先取り出願されてしまったとしても、冷静に権利範囲を確認してみるとあなたが使用する商標は他人の権利範囲から外れている可能性があります。また、他人の先取り商標の存在に気づいたタイミングによって取り得る対応策が変わってきます。商標の内容を確認するには、特許情報プラットフォームJ-PlatPatで目的の商標を検索して確認してください。ここでは当法人の商標(登録第6624060号)を例に、どの情報を確認すべきかを説明します。
- 登録(出願)された商標の内容を確認する
登録された商標が文字商標なのか、図形商標なのか、図形と文字の結合商標なのか、文字商標の場合は漢字なのかカタカナなのかひらがななのか、特殊なフォント(毛筆等)を使っているのか、標準文字なのか等を確認し、あなたが使用する商標と同一又は類似するのかどうかを検討します。
2. 指定商品・指定役務を確認する
先取り出願した人が商標にあまり詳しくなかった場合、指定商品・指定役務の選択を誤ってあなたが使用する商品・役務と異なる指定商品・指定役務を選択している可能性もあります。この場合はチャンスであり、正しい指定商品・指定役務を指定して出願すれば先願の他人の先取り商標とは非類似としてあなたの商標も登録となる可能性があります。あなたの商標も継続して使用することができますが、その場合は念のため弁理士の確認を得てから使用するようにしてください。
3. 出願日、登録日、登録公報発行日等の日付を確認する
他人の先取り商標に気づいたタイミングによって取り得る対応策が変わってきます。登録前であれば情報提供、登録後であれば異議申立てか商標登録無効審判、不使用取消審判等を請求することができます。
自分も商標登録出願をしておく
他人の商標登録を阻止する、登録された他人の商標を取り消す等の行動を起こす際には、事前に商標登録出願をしておくことをお勧めします。ただし、他人の登録商標を取り消すのに時間がかかる場合は時期を見計らって出願した方が良い場合もあるのでタイミングについては弁理によく相談してください。
他人の商標登録を阻止する又は取消す方法
他人の手続きを特許庁に対して行うことで、他人の商標登録を阻止したり、他人の登録商標を取消すことができます。ただし、商標登録を取り消す理由としてあなたの使用する商標を引用する場合は、あなたの商標の周知性、著名性(つまり、有名であること)が求められます。
情報提供
他人の商標登録出願が登録前である場合、「情報提供」を行うことができます。
商標法施行規則
(情報の提供)
第十九条 商標登録出願があつたときは、何人も、特許庁長官に対し、当該商標登録出願に関し、刊行物又は商標登録出願の願書の写しその他の書類を提出することにより当該商標登録出願が商標法第三条、第四条第一項第一号、第六号から第十一号まで、第十五号から第十九号まで、第七条の二第一項、第八条第二項若しくは第五項の規定により登録することができないものである旨の情報を提供することができる。ただし、当該商標登録出願が特許庁に係属しなくなつたときは、この限りでない。
異議申立て
他人の商標が登録されていた場合、商標掲載公報の発行日から2か月以内であれば登録異議の申立てをすることができます。
商標法
(登録異議の申立て)
第四十三条の二 何人も、商標掲載公報の発行の日から二月以内に限り、特許庁長官に、商標登録が次の各号のいずれかに該当することを理由として登録異議の申立てをすることができる。この場合において、二以上の指定商品又は指定役務に係る商標登録については、指定商品又は指定役務ごとに登録異議の申立てをすることができる。
商標登録無効審判
他人の商標が登録され、商標掲載公報の発行日から2か月以上経過していた場合は、情報提供も異議申立ても出来ませんが、商標登録無効審判を請求することができます。
商標法
(商標登録の無効の審判)
第四十六条 商標登録が次の各号のいずれかに該当するときは、その商標登録を無効にすることについて審判を請求することができる。この場合において、商標登録に係る指定商品又は指定役務が二以上のものについては、指定商品又は指定役務ごとに請求することができる。
商標登録取消審判(商標法50条等)
他人の商標が登録されていても、継続して3年以上登録商標について不使用であった場合は不使用取消審判(商標法50条)を請求することができます。
おわりに
他人に商標を先取り出願されてしまった場合にパニックになってしまうと先取り出願した他人の思うつぼです。冷静に専門家である弁理士に相談し、粛々と法的な手続きで対処しましょう。
一度他人に商標登録出願されてしまうと取り返すのにお金も時間も労力もかかってしまいます。あなたにとって重要な商標は早めに出願しておくことをお勧めします。