はじめに
弁理士法人シアラシア 代表弁理士の嵐田です。「商標を取りたいけどお金もかけたくない」という方向けに、自分で手続きをする方法を説明します。
商標登録出願全体の26%が本人出願という事実
知的財産権(特許権、実用新案権、意匠権、商標権)の特許庁に対する出願(申請)は、手続きを調べれば自分で行うこともできます。特許行政年次報告書2022年版の統計情報によると、2021年に出願された商標は全部で164,537件あり、そのうち約26%にあたる42,929件が本人出願でした。ちなみに特許は全289,200件(2021年)中本人出願が18,651件(約6%)でした。「特許は難しいけど商標なら自分でも手続きできそう」というのは感覚的にも理解できますし、実際特許に比べると商標の方が本人出願が多くなされているという統計的事実があります。
商標1件に最低いくらかかるのか
結論から言うと、29,200円です。
この金額になる条件は、(1)1区分の出願(12,000円)を(2)オンラインで行い(0円)、(3)登録料を分割納付(17,200円)した場合となります。ただし、商標についてあまりよく知らず、初めて商標を出願してみようという方が(2)のオンライン出願をするのはハードルが高く、現実的には上記金額に電子化手数料を加えた3,2400円が現実的な最低金額になるかと思います。
弁理士に依頼する場合は、この金額に別途手数料がかかります。最近流行りの格安サービスで+2万円前後、特許事務所では+3~5万円くらいが相場となります。
(1)出願料
特許庁に支払う出願料は、区分の数に応じて金額が変わります。
商標の区分は商品・サービスのカテゴリーごとに割り振られており、計45区分あります。
それぞれの区分にどのような商品・サービスが分類されているかは、類似商品・役務審査基準をご参照ください。
出願料の計算式は「3,400円+(区分数×8,600円)」であり、1~5区分の出願料は以下の表の通りです。
1区分 | 12,000円 |
2区分 | 20,600円 |
3区分 | 29,200円 |
4区分 | 37,800円 |
5区分 | 46,400円 |
(2)電子化手数料
特許庁への手続は、パソコン等を利用して行う電子出願と、書面(紙)による手続の2通りがあります。
特許庁では、出願された書面は全て電子化することにしており、紙で手続きした場合は電子化するために別途費用がかかることになります。そのため、紙の手続きの場合は別途電子化手数料が必要になります。
電子化手数料の計算式は「2,400円+(800円×書面の枚数)」となりますので、書面の枚数に応じて以下の表の手数料がかかります。商標登録出願の書面は1区分であれば1~2枚となりますので、3,200円か4,000円が追加でかかることになります。
上記の最低料金にするためには、紙ではなくパソコンを使ってオンライン出願をする必要があります。
0枚(電子出願) | 0円 |
1枚 | 3,200円 |
2枚 | 4,000円 |
3枚 | 4,800円 |
4枚 | 5,600円 |
5枚 | 6,400円 |
(3)登録料
特許庁に支払う登録料も、出願料と同様に区分の数に応じて金額が変わります。
商標権の存続期間は設定登録の日から10年なので、基本的には10年分の登録料を支払うことになりますが、前期5年分と後期5年分を分割して納付することも可能です。
10年分一括で納付する場合の登録料の計算式は「区分数×32,900円」です。
分割納付する場合の5年分の登録料は「区分数×17,200円」です。後期5年分も納付して結果的に10年分となった場合は34,400円(17,200×2)となり、10年分一括納付した場合に比べて1,500円割高となります。
1~5区分の登録料を以下の表にまとめました。
分割納付(5年) | 一括納付(10年) | |
1区分 | 17,200円 | 32,900円 |
2区分 | 34,400円 | 65,800円 |
3区分 | 51,600円 | 98,700円 |
4区分 | 68,800円 | 131,600円 |
5区分 | 86,000円 | 164,500円 |
本人出願のメリット・デメリット
本人出願する場合のメリット・デメリットをまとめてみました。
デメリットの方を多く挙げてしまいましたが、項目は少なくても本人出願は費用を抑えられるメリットが圧倒的に大きいと思います。
本人出願のメリット
- 費用を抑えられる
- 自分で調べることで知識が身につき、2件目以降も自分で出願できるようになる
本人出願のデメリット
- 商標制度について調べる労力がかかる
- 出願書類の作成、特許印紙の購入、特許庁への郵送、電子化手数料の納付等、手続きが大変
- 事前調査不足により審査で拒絶されてしまい登録ができない場合がある
弁理士に依頼しても審査で拒絶されてしまうことはありますが、プロに依頼することで他人の商標と類似しないように出願書類を作成したり、特許庁からの拒絶理由通知書に対して適切な反論をすることができるため、最終的に登録となる可能性は高くなります。
- 実際に使用する商標と登録した商標が異なることによるリスクがある
商標は、登録した商標をそのまま使用する必要があります。
登録商標をアレンジして使うと、他人の商標権と類似する商標を使用したとして商標権侵害となってしまうおそれや、不使用取消審判によって取り消されてしまうリスクがあります。
- 指定商品・指定役務の選択が不適切であることのリスクがある
商標権の指定商品・指定役務が実際の業務と異なっていた場合(間違った区分を登録してしまった場合)、正しい区分で他人に商標を取られてしまうおそれがあります。
本人出願する方のために、弁理士がお手伝いできること
弁理士としては、手続きの代理を全てお任せして頂きたいところですが、個人事業主の方や中小企業にとって出来る限り費用を安く抑えたいというお気持ちも理解できます。年間約43,000件も本人出願がなされている現状において、本人出願を選択した方のために、要所要所で必要最小限のサポートを致します。具体的には以下の通りです。
まずは「お問い合わせフォーム」からお気軽にご連絡ください。
商標登録出願前
ご自身で作成した出願書類について、特許庁に送る前に念のため弁理士の確認を得たい、という場合にご支援致します。
① 作成した出願書類のファイルを送って頂き、事業内容等をヒアリングさせて頂く
② 簡単に先行商標調査を行い、他人の先行商標がないことを確認する
③ もし他人の先行商標があれば、回避策を提案する
④ その他、書類に不備がないかを確認する
⑤ 出願以後の手続きの流れを説明し、商標制度についてご質問に回答する
拒絶理由通知書が届いたら
特許庁から拒絶理由通知書が届いた場合、「拒絶」という強い言葉に驚かれるかも知れませんが上手く対応すれば登録になる可能性は十分あります。
① 出願書類と拒絶理由通知書の写しを送って頂き、拒絶理由通知書の内容を検討する
② 拒絶理由通知書に対する応答案を提示する
③ 意見書・手続補正書を作成する(別料金)
④ 拒絶理由通知書に対して応答した後の流れを説明し、ご質問に回答する