はじめに
代表弁理士の嵐田です。
他人の先登録商標がなくても「商品の特徴を表しているだけなので登録できません」と特許庁から拒絶されてしまうケースがあります。これは、商標登録において非常に多いつまずきポイントの一つです。
今回は、商標法の中でも特に引っかかりやすい「商標法3条1項3号(記述的商標)」について、初心者の方にもわかるように解説します。また、実際に「特徴を表しているだけ」と判断されて登録が認められなかった事例もご紹介します。
商標法3条1項3号(記述的商標)とは?
商標法3条1項3号は、次のように規定されています。
(商標登録の要件)
第三条 自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。
(1号、2号省略)
三 その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状(包装の形状を含む。第二十六条第一項第二号及び第三号において同じ。)、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標
(4号、5号、6号省略)
簡単に言うと「商品の産地、品質、原材料、効能、用途、形状などを普通に表示しただけの商標は登録できない」と定められています。
なぜ登録できないの?
理由は大きく2つあります。
理由1 みんなが使いたい言葉だから(公益上の理由)
商品の「品質」や「材料」を表す言葉は、同じ商品を扱う業者なら誰でも説明のために使いたい言葉です。これを誰か一人に独占させてしまうと、他の業者が困ってしまいます。
理由2 どこの商品か区別がつかないから(識別力の欠如)
例えば、美味しいリンゴに「おいしい」という商標を付けても、消費者はそれが「商品名」なのか「味の説明」なのか区別がつきません。これでは「自分の商品」と「他人の商品」を区別するマーク(商標)としての役割を果たせません。
ここがダメだった!具体的なNG事例3選
では、どのようなネーミングが「記述的商標」として登録を拒絶されてしまったのでしょうか。実際の審判決例から、ユニークな事例を特許庁が公開する「審判決要約集」から3つご紹介します。
事例①:滑り止め材料に「スベラーヌ」 審判決要約集 No.27
- 商標: スベラーヌ
- 指定商品: 滑り止め付き建築材料など
- 判断のポイント: 「スベラーヌ」という言葉からは、直ちに「滑らぬ(滑らない)」という意味合いが生じます。これを滑り止め材料に使った場合、「滑らない品質・効能を持っている」ということを、ちょっと強調して表現したにすぎないと判断されました。 ダジャレや語呂合わせでも、意味がストレートに伝わりすぎると「品質表示」とみなされてしまいます。
事例②:ロールブラインドに「マキトール」 審判決要約集 No.34
- 商標: マキトール
- 指定商品: ロールブラインド、ロールスクリーンなど
- 判断のポイント: 「マキトール」は、「巻き取る」という言葉の語呂を良くして「トール」と伸ばしただけのものとみられます。ロールブラインドなどの商品に使えば、「巻き取る機能や構造を持った商品である」と品質や構造を説明しているにすぎないと判断されました。 商品の動きや機能をそのままネーミングにするのも要注意です。
事例③:お肉の検定試験に「肉ソムリエ」 審判決要約集 No.55
- 商標: 肉ソムリエ
- 指定役務(サービス): 肉に関する資格検定試験の実施など
- 判断のポイント: 「ソムリエ」はワインの専門知識を持つ人ですが、「○○ソムリエ」のように使うことで「その分野の専門知識を持つ人」という意味で広く使われています。 そのため、「肉ソムリエ」を肉に関する検定試験などのサービス名として使うと、「肉に関する専門的知識を持つ者」という資格の内容(質)を表示しているにすぎないと判断されました。 「○○マイスター」や「○○検定」なども同様に、サービスの内容そのものを表しているとして登録が難しい傾向にあります。
まとめ:ネーミングの際は「ひねり」と「造語」を意識しよう
商品の特徴をアピールしたいあまり、特徴をそのまま説明するようなネーミングにしてしまうと、商標法3条1項3号に該当して登録できない可能性が高くなります。
商標登録を目指すなら、以下のポイントを意識してみましょう。
- 特徴を暗示する程度にとどめる(直接的に言わない)
- 全く関係のない言葉を組み合わせる
- 完全な造語を作る
「これは商品の説明になっていないかな?」と一度立ち止まって確認することが、強いブランドを作る第一歩です。

