はじめに
以前、2022年にIPOした会社の特許・商標の件数を調査したことがありました。この調査結果はセミナーの資料としても用いており、多くの方に好評いただきました。
一方で、2022年の情報は時間が経つに連れて古くなってしまうため、最新の情報にアップデートする必要性を感じておりました。そこで、2023年版の調査を実施しました。
2023年にIPOした企業の国内特許、国内商標の件数
2023年に東証グロース市場にIPOした企業の国内特許、国内商標の件数
2023年にIPOした企業は全部で96社あります。そのうち、東証グロース市場に上場した会社は66社でした。敢えて上場を選択しない会社、日本ではなくNASDAQ等の外国市場に上場する会社、スタンダード市場、プライム市場でIPOする会社、M&AをEXITとする会社等もあると思いますが、今回は多くのスタートアップ企業が目指すであろう東証グロース市場に絞って国内特許、国内商標の件数を調べました。
2023年グロース市場にIPOした企業の業種別の国内特許、国内商標の件数
業種別に特許出願率、商標取得率を以下の表にまとめました。
なお、医薬品3社のうち「株式会社K Pharma」については企業名で検索しても特許0件という結果であり、医薬品企業で特許0件に違和感を感じたため直近の決算説明書を確認したところ、「日本で特許取得済み」との記載がありました。まだデータベースに公開されていない特許がある可能性があると考え、ここでは株式会社K Pharmaを特許出願ありの会社としてカウントしました。
特許出願件数[件] | 商標件数[件] | 全体 | 特許出願率 | 商標取得率 | |
輸送用機器 | 1 | 1 | 1 | 100 % | 100 % |
不動産業 | 0 | 1 | 1 | 0 % | 100 % |
情報・通信業 | 20 | 32 | 32 | 63 % | 100 % |
証券・消費員先物業 | 0 | 2 | 2 | 0 % | 100 % |
小売業 | 0 | 3 | 2 | 0 % | 75 % |
機械 | 1 | 1 | 4 | 100 % | 100 % |
医薬品 | 3※ | 3 | 3 | 100 % | 100 % |
サービス | 6 | 22 | 22 | 27 % | 100 % |
調査結果の考察
特許、商標の出願割合
2022年の集計では、67社中32社、47.8%の会社が1件以上の特許を出願していました。2023年は66社中30社、45.5%の会社が1件以上の特許を出願していました。割合としては2022年と2023年で大きな差はなく、IPOした会社の50%弱が特許出願経験ありという結果は変わりませんでした。業種別にみると、機械、医薬品等の技術系の会社は特許出願率が高く、不動産業、証券・商品先物業、小売業、サービス業等は特許出願率が低い傾向にありました。情報・通信業に属する企業は66社中32社と最も多く、特許出願率は63%という結果でした。
商標についてみると、2022年は67社中65社、割合にして97.0%の会社が1件以上の商標を出願していました。2023年は66社中65社、98.5%の会社が1件以上の商標を出願していました。特許と比べ商標は業種に関わらず重要であり、ほとんどの企業が取得していることが再確認できました。
まとめ
- 2023年にIPOした企業のうち、45.5 %(2022年は47.8 %)が少なくとも1件以上の特許出願をしていた
- 2023年にIPOした企業のうち、98.5 %(2022年は98.5 %)が少なくとも1件以上の商標登録出願をしていた
2023年にIPOした企業も2022年と同様に、半数以上の会社は特許出願がなくてもIPOをすることができた一方、商標はほとんどの会社が1件以上出願していたことがわかりました。
今回は業種別の集計を行ったところ、機械・医薬品等のリアルテック・ディープテック系の会社は特許が重要であり、不動産業、証券・商品先物業等のサービス系の会社は相対的に特許の重要度は低いことがわかりました。これは、調査前のイメージどおりの結果でした。